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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)3944号 判決 1982年2月26日

原告 カルテイエ・インターナシヨナル・ビー・プイ

被告 棟方兵一郎

主文

一  被告は、別紙標章目録(一)記載の標章を付したシヨルダー・バツグ、レデイス・バツグ等の革製のかばん類及びさいふ等の革製の袋物を譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二  被告は、別紙標章目録(二)記載の標章を付した前項記載のかばん類及び袋物の包装箱を譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

三  被告は、第一項記載の革製のかばん類及び革製の袋物に付された同項記載の標章を抹消し、第二項記載の包装箱に付された同項記載の標章を抹消せよ。

四  原告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は被告の負担とする。

六  この判決の第一ないし第三項は仮に執行することができる。

事実

第一原告の求めた裁判

一  主文第一項同旨。

二  主文第二項同旨。

三  被告は、第一項記載の革製のかばん類と袋物及び第二項記載の包装箱を廃棄せよ。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行宣言。

第二原告の請求原因

一  原告の商標権

原告は、左記(一)、(二)の登録商標(以下その(一)の商標を本件甲商標といい、同(二)の商標を本件乙商標という)の商標権者である。

(一)  登録商標 別紙商標目録(一)記載のとおり。

登録番号 第一三五七八八六号

指定商品 第二一類 装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具

出願   昭和四八年三月一四日(商願昭四八―四三八七四)

公告   昭和五二年一二月一六日(商公昭五二―七五八〇三)

登録   昭和五三年一一月二八日

(二)  登録商標 別紙商標目録(二)記載のとおり。

登録番号 第一四三二二一二号

指定商品 第二一類 パリ製の装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉及びその模造品、造花、化粧用具

出願   昭和四九年一月二一日(商願昭四九―八六二三)

公告   昭和五四年一二月一八日(商公昭五四―四八〇一二)

登録   昭和五五年八月二八日

二  被告の標章使用

被告は、大阪市東区船場中央所在の船場センタービルにおいて「日本宝石銀行」の屋号で革製のバツグ、さいふ等の小売等を業としている者であるが(商号登記なし)、昭和五五年一月頃以来、自己が販売するレデイス・バツグ、シヨルダー・バツグ等の革製のかばん類及びさいふ等の革製の袋物に別紙標章目録(一)記載の標章(以下イ号標章(一)という)を付し、これらをその包装であるボール紙製の包装箱に入れ、その表面に別紙標章目録(二)記載の標章(以下イ号標章(二)という)を付して譲渡し、又は譲渡のため展示している。

三  本件甲、乙商標とイ号標章(一)、(二)の同一性ないし類似性

(一)  イ号標章(一)の使用対象である革製のかばん類及び袋物が、本件甲商標の指定商品に該当し、かつ本件乙商標の指定商品に類似することは明らかである。そして、イ号標章(二)の使用対象である包装箱が、右指定商品と同一ないし類似する商品の包装として使用されるものであることは前記のとおりである。

(二)  そこで、イ号標章(一)を本件甲、乙両商標と対比してみると、同標章が右両商標に類似していることは明らかである。

1 右イ号標章は、CartierとPARISという二つの西欧文字単語を組合せてなる文字標章であり、Cartierと大書した下にPARISと小書したものであるが、右標章のうち、Cartierなる部分は、原告の世界的に著名な商標「Cartier」(カルテイエ)と同一の文字からなるものであり、外観上も大書されていて見る者の注意を強く引く構成になつている。一方、PARISの部分は、その下に小書されたものであり一般に地名ないし商品の産地の表示と受けとられやすいものであつて顕著性が弱いと考えられることに徴すると、右標章からはCartier(カルテイエ)の称呼、観念を生ずるというべく、右標章の要部はCartierの部分にあるというべきである(もちろん、このことは、右標章からカルテイエ・パリスなる称呼、観念が生ずることを否定するものではない)。

2 そこで、イ号標章(一)を本件甲商標と対比してみると、右商標はいうまでもなくCARTIERなる西欧文字単語からなる文字商標であり、右イ号標章は、これと同一の称呼、観念を有し、外観も類似するといえるものであるから、全体として類似する。

3 次に、イ号標章(一)と本件乙商標を対比してみると、両者は、書体こそ若干異なるもののいずれもCARTIER(Cartier)とPARISなる西欧文字単語を同様の態様で組合せた文字標章であり、称呼、観念は同一であり、外観も同一といつてよい程類似するものであるから、両者が全体として類似することは論をまたない。

(三)  更に、イ号標章(二)を本件甲、乙両商標と対比してみると、同標章が右両商標に類似していることも明らかである。

1 右イ号標章は、横書きに大書したCartierなる文字の下にParisと小書した西欧文字単語の組合せからなる標章(この構成はイ号標章(一)と同じである)の前に、更に、les must deなる文言を付加したものであるが、そのうちles must deなる部分は、英語の助動詞mustと仏語の定冠詞les及び前置詞deを組合せたものであつて、すぐには特段の意味を理解し難いものであるので、右標章のうち、主要部をなす部分は、これを除いた前記CartierとParisの組合せからなる部分であるというべきである。そして、その中でも最も重要な部分をなすのがCartierの部分であること、したがつて、右主要部からカルテイエ・パリスなる称呼、観念を生ずるほか、Cartier(カルテイエ)なる称呼、観念を生ずることは、前記イ号標章(一)について述べたとおりである。

2 そこで、イ号標章(二)を本件甲商標と対比してみると、右標章は、その主要部において本件甲商標と同一の称呼、観念を有し、外観も類似の部分を含むものであるから、全体として類似する。

3 次に、イ号標章(二)を本件乙商標と対比してみると、その主要部の称呼、観念は右商標のそれと同一であり、外観も類似するものであるから、右標章が全体として本件乙商標に類似することは明らかである。

(四)  以上のとおり、イ号標章(一)、(二)は、いずれも本件甲、乙両商標と称呼、観念とも同一であるか(イ号標章(一)と本件乙商標)、その主要部において同一の称呼、観念を生ずるもの(イ号標章(一)、(二)と本件甲商標、イ号標章(二)と本件乙商標)であるから、かかる標章が本件甲、乙商標の指定商品と同一又は類似の商品ないしその包装に使用された場合その商品の出所につき誤認混同を生ずることは明らかである。

したがつて、イ号標章(一)、(二)は、いずれも本件甲、乙両商標のそれぞれに類似する。

四  被告の商標権侵害

そうすると、被告の前記イ号標章(一)、(二)の使用は、原告の本件甲、乙両商標権を侵害するものである。

五  差止めと廃棄請求

よつて、原告は被告に対し、商標法三六条所定の商標権侵害行為の差止請求権及び廃棄請求権に基づき、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

第三原告が提出、援用した証拠<省略>

第四被告は、公示送達による適式な呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

いずれも様式体裁により真正に成立したものと認むべき甲第一、第二号証、甲第三、第四号証の各三、第五ないし第八号証、いずれも弁論の全趣旨により原告主張のとおりの写真と認むべき甲第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし三、第一二号証の一ないし四及び証人鳥沢利行の証言によれば、請求原因一ないし三の各事実を認めることができ、右事実によれば、原告の本訴請求は理由があるというべきである。ただし、請求の趣旨第三項の廃棄請求については、元来、かかる請求は第一、第二項記載の差止め実現のために必要かつ十分な程度のものに限られるべきものと解されるところ、前掲甲第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし三によつて認められるイ号標章(一)、(二)の使用態様と経験則に照らすと、その使用対象物品であるかばん類、袋物、包装箱から、塗りつぶし、染直し等の方法で右各標章のみを抹消することも技術的には可能であると認められるので、右対象物品そのものの廃棄は行きすぎであるといわざるをえず、右各標章の抹消の限度でこれを認めるのが相当である。

よつて、原告の本訴請求を右の限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 金田育三 上野茂 若林諒)

商標目録(一)

商標目録(二)

標章目録(一)

標章目録(二)

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